長さ、距離、重量の単位:
銭形平次捕物控は江戸時代の主に江戸を舞台とする時代小説ですので、そこに使われている長さ、距離、重量の単位は現代のものとは異なっています。特に尺貫法の単位などは「坪」と「間」、「升」を除けば現代ではほとんど使われていないので、直感的に理解できないことも多いのではないかと思います。ここでは尺貫法の単位などについて参考までにまとめてみました。
昭和26年に計量法が制定されるまでは、軽量単位として尺貫法が一般的に用いられていました。筆者の明治生まれの祖母や大正生れの父などは、常に背の高さは尺、体重は貫で表現していたものです。野村胡堂も尺貫法の中で普通に暮らしていたものと思われるので、銭形平次捕物控の中での尺貫法による表現は、特に時代小説だからと意識的に使用されたものではないでしょう。逆に言えば野村胡堂は明治時代に定められた度量衡法の「尺・貫」を念頭において銭形平次捕物控を執筆していたと思われます。
●長さの単位
1丈=10尺=3.03m
1尺=10寸=30.3cm
1寸=10分=3.03cm
よくある30cmのものさしの長さがほぼ1尺に相当しますので、具体的にイメージしやすいと思います。(写真は昭和30年代までは残っていたcm、mmと寸、分の目盛りが刻まれた竹製のものさしの一部分です。)
この他に「間(けん)」があります。明治の度量衡法では1間=6尺と定められているのですが、「間」は建築のモジュール単位となっていて、地方によって長さが異なり、関西では1間=6尺5寸、関東・東北では1間=6尺です。岩手県で生れて、東京で暮らした野村胡堂は、日常生活における建築モジュールをイメージしていたと思われますから、1間=6尺=182cmと考えて良いのではないかと思います。
足のサイズには1文銭の直径を基準にした「文(もん)」が使われていました。1文=2.4cmです。銭形平次捕物控の中にも「文」は足跡の説明などに出てきます。
なお、「一寸」は本来の長さをしめす使い方以外に、「ちょっと」の漢字表記にも用いられます。銭形平次捕物控ににも「ちょっと」の意味で使われている「一寸」がしばしば出てきます。紛らわしい場合にはPDF版の作成時にルビを追加したものもありますが、そのままルビ無しになっている場合もあります。
●距離の単位
1里=36町=3927m
1町=360尺=109.1m
滅多に江戸の町を出ない銭形平次捕物控では「里」はほとんど使われていませんが、箱根まで旅する「お局お六」などには出てきます。「町」は銭形平次捕物控では「丁」と表記されていることが多いですが、時々出てきますので、約100mと覚えておくとよいでしょう。
●面積の単位
1坪=6尺(182cm)四方=3.3m²
「坪」は銭形平次捕物控の中にも出てきますが、それ以外の、例えば田圃の広さに用いられる「反(=300坪)」、「畝(=30坪)」などは、銭形平次捕物控には出てこないようです。
●容積の単位
1石=10斗=180L 1斗=10升=18L 1升=10合=1.8L 1合=10勺=180cm³
酒の1升瓶や1斗樽、灯油や塗料の1斗缶、牛乳瓶の1合瓶など、容積の尺貫法の単位は、現在でもメートル法表記にこそなっていますが、日常生活の中に生き残っていますので、具体的なイメージがわきやすいでしょう。
なお、武士の俸給は玄米の支給量が基準になっていたので、石は事実上の年間の俸給の単位(石高)になっていました。武士の多くが必ずしも豊かでなかったことは銭形平次捕物控の中ではしばしば語られていますが、旗本の武士の9割は500石以下であったと言われています。
●重量の単位
明治(1891年)以降は1貫=1000匁=3.75kgと定められていて、野村胡堂もこの重さを意識していたものと思われます。ただし江戸時代の1貫はこれよりも幾分少なく3.736kg程度であったようです。5円硬貨の重さは3.75gなので1匁に相当します。
なお、貫は元々は銭を束ねた道具の「銭貫」に由来しています。銭1000枚=1000文を束ねた重さが1貫と転じたとのことです。ただし、手許にある寛永通宝は3.5g前後のものが多いので、1000枚でも1貫には達しないように思われますが、江戸時代にも1文銭1000枚が1貫文という言い方がなされていました。
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